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役立つポイント解説

地震等による建物の損壊等と
所有者の責任等について

地震等によって建物が損壊し、他人に損害が生じた場合の建物の所有者の責任(土地の工作物責任)などについて、弁護士の中川博晴先生に民法717条を中心として、ポイントを解説していただきました。

※以下の回答は、一般的に参考になると思われる考え方を示したもので、具体的・個別のケースによって別途考慮すべき要素があり得ますので、ご注意ください。(◆取材ご協力/大塚・中川・加藤法律事務所 弁護士 中川博晴先生)

参考条文

■民法第717条 
(土地の工作物等の
占有者及び所有者の責任)

第717条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。

  • 建物所有者の責任(民法第717条)の概要についてお教えください。

    所有者としての工作物責任とは、いわゆる「無過失責任」というもので、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があると無条件に賠償責任を負わなければならない」という非常に大きな責任を負うものと言われています。土地の工作物=建物が代表的なものになりますが、どうしてそこまで責任を負わせるかというと、土地の工作物は危険なものが多く、そのようなものを所有する人が第一義的に、全面的に利益を負っている訳だから、それに伴う責任も負うべきであると。いわゆる「危険責任」というのですが、それが所有者としての責任です。

  • 「土地の工作物の設置又は保存の瑕疵」とは何でしょうか?

    「瑕疵」とは、一般的に言われている意味では「欠陥」です。欠陥とは何かというと、工作物が本来有すべき安全性についての性質・設備等を欠いていることと言われています。建物の瑕疵=欠陥が原因で、他人=例えばその建物の入居者や、近隣の方、通行人などに損害が生じた場合は、所有者は過失がなくても損害賠償責任を負うことになります。「設置・保存」というのは、建築時点からの欠陥なのか、その後の欠陥なのか、という程度の意味であまりこだわる必要はないと思われます。

  • 「占有者の責任」とはどのようなことでしょうか?

    占有者にもこの責任が認められているのですが、なぜ所有者だけでなく占有者も認められているかと言うと、占有者も工作物の利用によってある程度の利益は得ているので、責任を負うべき場合があると。ただ、所有者とは違い、無過失責任とまではされていません。占有者の場合は、工作物責任の条文の但し書きで、占有者がその損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき=過失が無い場合には責任を免れることになります。

  • 賃貸物件の場合、占有者とはどの立場のことをいうのでしょうか?

    占有者は、事実上そのものを支配していればいいのです。賃貸住宅の場合、賃借人は建物に住んで支配している訳で占有者と形式上では言えるのですが、裁判例で否定した判例があります。「本件の占有者は工作物を現実に支配・管理し、瑕疵がある場合、独自の権限に基づいてその瑕疵を修補しうる、又は修補すべき地位にあるものをいう」と。だから形式上の賃借人は含まれないという判例が、東京高裁の昭和29年という古い判例ですがあります。賃借人に裁量があるかという面で見ても、通常の賃貸住宅の場合、屋根材がはがれそうだといっても、賃借人には直せないでしょう。契約内容によっても若干異なりますが、一般的には電球の交換とか、軽微なものの交換程度が賃借人の負担で、第三者に損害を与えそうなものに関しての修補等の義務は賃借人にはないのが普通でしょうから、住宅の賃借人が常識的な住まい方をしている場合に工作物責任を負うケースは想定しにくいのではないでしょうか。いずれにしても、訴訟の実務上は、被害者側から見ると、過失責任である占有者より、「無過失」責任である所有者に対して賠償請求するほうがやり易いので、賃貸物件の欠陥が原因で、隣地の方など第三者に被害が生じた場合は、往往にして所有者の責任が問われることが多いでしょう。訴えられてしまった場合、所有者は「無過失」でも責任が問われますから、そもそも「設置・保存に瑕疵がなかった」のであればその点を主張して争うことになります。

  • 「他にその責任を負う者」とは、誰のことを指すのでしょうか?

    建築業者等の工事等が原因で瑕疵が生じたのであれば、当然その業者等の債務不履行あるいは不法行為として求償することはできます。ただし、これは工事に不備があればということで、不備が無ければ求償権もありません。当初工事に不備は無かったが年月が経って、例えば屋根材などがはがれかけていたのを放置したのであればそれは求償できず、所有者の責任ということになります。

  • 地震等による被害と、工作物責任との関係についてお教えください。

    これは非常に難しい話ですが、まず地震は不可抗力ですし、天変地異であって、防ぎようがありません。ただし、地震は不可抗力ですがそれと相まって、建物自体に瑕疵があればそれによる責任が問われる可能性がないことはない、ということになります。まず、そもそも法令に違反した違法建築物であれば、法令違反自体が瑕疵とみなされることは明らかでしょう。そして、瑕疵の無い状態=建物が持つべき安全性がどの程度の安全性であるべきかというと、最近の判例が見当たらず昭和50年代の古いものですが仙台の判例で、ブロック塀があり、地震でそれが倒れてしまって近くを歩いていた子供が亡くなってしまった事実があります。その事案の裁判所の判断は、「ブロック塀について築造当時、通常予想された地震動に耐えうる安全性を有していれば足りる」とし、そのブロックは耐震性があったので瑕疵ではないという判断をしています。したがって、基本的には建築時に予想されうる耐震性を持っていれば、瑕疵とは言えないだろうというのが、そこから推測されることになろうかと思われます。基本的には法律では後から重い責任を法的な義務として課すのはアンフェアですので、建築当時の基準で認められたものであれば、新しい基準に合っていないからだめだ、ということは一般的な民間の住宅に関しては言われないと思います。公の建物や多数の人が出入りするような建物などはまた別ですが。

    ※建築基準法令の旧基準に基づいて建てられた既存建築物については、増改築等を実施する際は、原則として現行基準に適合させることが必要となります。
    ※なお、耐震改修促進法では、病院など不特定多数が利用する建築物及び老人ホームなど避難弱者が利用する建築物などについて、耐震診断を義務付ける改正が平成25年11月に施行されています。

  • では、古くなった建物はそのままの状態でもよいのでしょうか?

    前述のとおり、単に古い建物だからといって、ただそれだけでは耐震診断や耐震補強の義務まではないでしょう。基本的には、最低限その建物の建築当時の持っている安全性を備えていればいいと。しかし、建物を賃貸する場合、賃貸人には賃貸物の使用等に支障が無いよう修繕する義務があります(民法606条)。当然のことですが、もともと合法に建てた建物だからといって、その後何も管理をしなくてよいということにはなりません。備え付けのエアコンの室外機がはずれて落ちそうだなどということがあれば、これは賃貸人が速やかに修繕するべきでしょうし、放っておけば義務を尽くしていないことになり、修繕を怠ったことについての責任を問われる可能性は出てきます。

  • 耐震性が心配な古い建物がありますが、そのまま賃貸してもよいのでしょうか?

    賃貸すること自体が禁止されているとまでは言えないのですが、例えば契約書に「地震があって万一倒壊しても、賃貸人は責任は負わない」という特約を入れたり、念書等を作ったとしても、書面1枚で責任を回避することは非常に難しいです。建物の状態によっては、オーナーさんに責任が生ずる場合はあります。
     非常に大きな地震が起きた場合、例えば敷地の地面が裂けたりしてしまえばどんなビルであろうが壊れるでしょうから、建物の強度とかの問題ではなくなるでしょう。しかし、程度の問題ですが、軽度の地震でも壊れてしまうような、それこそちょっと揺れたらどこかが壊れそうな物件、柱が腐っていそうな物件などであれば、所有者または賃貸人としての責任を生じる可能性があると思われます。

  • 耐震性不足で建替えをしたいが、退去してくれない入居者がいる場合はどうしたらよいでしょう?

    建物の耐震性に問題があって、軽度の地震でも建物が倒壊・損壊する恐れがある場合、入居者に退去を求めることができるかは、とても悩ましい問題です。 建物を耐震補強するのに過分な費用を要するために、費用対効果を考えるとオーナーサイドとしては建替えの方が望ましいという場合、貸主側による賃貸借契約の解約申入れを考えることになります。入居者が退去に応じてくれれば問題ないのですが、退去に応じてくれない場合には法的な対応が必要となります。相手方が話し合いに応じない場合、裁判所に解決を求めることになります。法律上は、建物の状況、借主側の必要性、貸主側の必要性等を考慮したうえで、貸主が立ち退き料を支払うことによって貸主側の解約申入れが認められることがあります。 設問のように、入居者が話し合いに応じてくれない場合、解約申入れをしたうえで退去を申し入れることになります。その際には、「建物の耐震性に問題があるので、軽度の地震によって建物が倒壊・損壊する恐れがあります。だから○月×日をもって賃貸借契約を解約することを申し入れます」ということを再三申し入れ、退去費用(立ち退き費用)を含めた交渉を求めます。入居者が交渉に応じなければ、内容証明郵便を入居者に送ります。そのうえで、解約申入れに基づく賃貸借契約の終了及び建物の明け渡しを求める裁判あるいは調停を裁判所に申し立てます。退去させるために貸主がやれることはこのあたりが限界ですので、慎重に対処してください。

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