造作譲渡とは?居抜き物件で開業・閉店するなら知っておきたい基本知識

貸店舗を探すときに見かける「造作譲渡」ってなに?
また、閉店することになった時、内装や設備は買い取ってもらえるの?と気になる人も多いはず。
この記事では、借りる人・閉店する人の両方に向けて、「造作譲渡」の基本と注意点をわかりやすく解説します。
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造作譲渡とは
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造作譲渡が発生する3つのケース
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契約は誰と結ぶ?貸主の許可は必要?
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造作譲渡料の相場と金額の決め方
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借りる側のメリット・デメリット
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閉店する側のメリット・デメリット
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物件選びのチェックポイントと注意点
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造作譲渡を断ることはできる?借りる側の交渉術
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よくある質問
まずは、居抜き物件に関連するワード「造作譲渡」についての基礎知識を紹介します。
造作譲渡とは
造作譲渡(ぞうさくじょうと)とは、店舗やオフィスなどの賃貸物件で、前の借主が使っていた内装や設備などを、次の借主が買い取る契約のことです。
たとえば、飲食店で使っていた厨房機器やカウンター、エアコン、照明などをそのまま残してもらい、新しい借主がそのまま利用する形です。
このときに発生するお金のことを「造作譲渡料」といいます。「譲渡」といっても有償ということになります。
そして、あくまで造作に対して支払う費用であり、家賃や敷金とは別にやりとりされるのが一般的です。
造作譲渡は、特に飲食店や美容室など、開業に多額の初期費用がかかる業種でよく利用されます。
居抜き物件との違い
「居抜き物件」は、内装や設備が残ったまま貸し出される物件のことです。
そして「造作譲渡」は、その残された設備をいくらで引き継ぐかという「売買」の視点が加わります。
つまり、居抜き物件の中に造作譲渡が含まれているケースが多いという関係です。
造作譲渡の対象になるもの
造作譲渡の対象になるのは、厨房機器、カウンター、棚、空調、照明、トイレ設備、内装の仕上げなど様々です。
一方で、建物の構造に関わる部分や、物件の所有者(貸主)の設備は含まれません。
どこからどこまでが譲渡の対象となるのかを把握し、きちんと確認することで、余計なトラブルを防ぐことができます。
・ガス台、シンクなどの厨房機器
・カウンターやテーブル、イス
・照明、エアコンなどの空調設備
・壁紙、棚、仕切りなどの内装
造作譲渡が発生する3つのケース
造作譲渡が発生する状況には、主に3つのパターンがあります。
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- 1.現テナントが閉店するタイミングで譲渡を希望
- 閉店時に造作譲渡を希望する場合、まず物件の所有者(貸主)の承諾を得てから、買い手を探し、譲渡契約を結びます。
その後、元の賃貸契約を解除し、新しい借主と貸主との間で新たな賃貸借契約を締結します。
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- 2.貸主が造作付きで募集
- 物件の所有者(貸主)が造作物を引き継ぎ、次のテナントに「設備付き」で賃貸。造作譲渡料は貸主と交渉する形になります。
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- 3.借主同士が直接譲渡
- 前の借主から直接設備を買い取るケース。貸主の承諾が必要なため、事前に確認が必要です。
契約は誰と結ぶ?貸主の許可は必要?
造作譲渡を進めるにあたっては、「誰と契約を結ぶのか」「貸主の承諾は必要なのか」といった契約面のポイントを押さえておくことが重要です。
ここでは、基本的な契約の流れや注意点を解説します。
契約の相手は誰?
造作譲渡の契約は、前の店舗の借主と、新たな借主との間で交わされるのが基本です。
譲渡する側と譲渡を受ける側で、内装・設備などをいくらで引き継ぐかを決め、「売買契約書」や「覚書」を取り交わします。
一方で、物件そのものの賃貸契約は、物件の所有者(貸主)と新たな借主との間で別途結ばれます。
この2つの契約は別物なので、どちらもしっかり整えておく必要があります。
貸主の承諾は必要?
ほとんどのケースで、造作譲渡を行うには物件の所有者(貸主)の承諾が必要です。
承諾がないまま勝手に進めてしまうと、契約違反とみなされ、譲渡そのものが無効になったり、賃貸契約を断られたりする恐れがあります。
特に以下のような条件が設定されている物件もあるため、事前確認は必須です。
・貸主が造作譲渡自体を認めていない場合
・次の入居者を貸主が審査・承認する条件になっている契約の場合
・譲渡に伴って賃料や契約条件が変更される場合
物件によっては、そもそも造作譲渡が不可だったり、手続きに時間がかかることもあります。
必ず仲介会社や管理会社を通じて、貸主の意向を事前に確認しましょう。
賃貸契約と造作譲渡はセットで考える
造作譲渡の契約が成立しても、貸主との賃貸契約がまとまらなければ入居はできません。
逆に、賃貸契約がまとまっても造作譲渡の条件に納得できなければ、内装・設備の引き継ぎはできません。
そのため、造作譲渡契約と賃貸契約はセットで、スムーズに進めることが大切です。
どちらかだけを先に決めてしまうと、あとでトラブルになる可能性があるため、必ず両方の調整を同時進行で進めましょう。
造作譲渡料の相場と金額の決め方
造作譲渡料は決まった相場があるわけではなく、物件や設備の状態によって大きく異なります。
ここでは、金額の目安とともに、減価償却の考え方についても解説します。
造作譲渡料の相場
相場は数万円〜数百万円と非常に幅があります。特に飲食店や美容系テナントなど、設備投資の多い業種では高額になりやすい傾向があります。
業種や店舗規模、設備の種類・数などによっても金額に差が出るため、同じ業種でも「隣の店舗は100万円だったのに、こちらは50万円」といった場合もあります。
●飲食店:50万〜300万円前後
●美容室・エステ:30万〜150万円前後
●事務所系:0〜50万円程度
金額の決め方
造作譲渡料は、あくまでも「譲る人と借りる人の間の交渉」で決まります。以下のような要素が金額に影響します。
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- ・設備の状態や新しさ
- 新品に近く、きれいに使われていれば価値は高くなります。反対に、老朽化していたり、故障や汚れが目立つ場合は評価が下がることも。
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- 店舗の立地
- 人通りの多い場所や、競合が少ないエリアでは高くなりやすいです。
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- 家賃の高さ
- 賃料が高額な場合、それに見合う価値があるかどうかも判断材料となります。
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- これまでの営業実績
- 人気店だった、口コミ評価が高い、リピーターが多いなどの実績がある場合、ブランドや集客力も譲渡料に上乗せされることがあります。
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- 募集の急ぎ具合
- 退去が迫っていて急いで譲渡したい場合は、価格が下がる傾向があります。
また、周辺に似た条件の物件がどれだけ出ているかも価格交渉に影響します。
選択肢が多ければ買い手は強気になれますが、めぼしい物件が少ない時期は譲渡側が有利になります。
交渉の余地は大きいので、不動産会社や専門家に相談しながら進めるのがおすすめです。
減価償却の考え方
設備や内装は、購入・設置した瞬間から少しずつ価値が下がっていきます。
この価値の目減りを「減価償却(げんかしょうきゃく)」といいます。
たとえば、100万円かけた厨房機器でも、5年経てば帳簿上の価値は20万円以下になることもあります。
譲渡料を決める際は、こうした「簿価(帳簿上の残存価値)」が参考にされることもありますが、実際にはそれだけではありません。
・現在の見た目や使用感
・故障の有無
・使いまわせるかどうか
といった実用的な価値も判断材料になります。
最終的には「売る側がいくらで譲りたいか」「買う側がいくらなら納得するか」という双方の合意がポイントになります。
理想とする金額にこだわりすぎると交渉が難航することもあるため、ある程度の柔軟さも必要です。
借りる側のメリット・デメリット
造作譲渡には、借りる側と閉店する側のどちらにもメリット・デメリットがあります。
ここではまず、借りる側からみたメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
・初期費用を抑えて開業できる
・工事不要で早期開業が可能
初期費用を抑えて開業できる
造作譲渡を利用する最大のメリットは、初期費用の大幅な削減です。
前の借主が残した内装や設備を引き継げるため、一から店舗をつくる必要がなく、内装工事費や設備投資を大幅にカットできます。特に飲食店や美容室など、設備投資がかさみやすい業種にとっては大きな利点です。
工事不要で早期開業が可能
すでに店舗としての形が整っているため、必要に応じた簡単な手直しだけで営業を始められるケースもあります。
開業までの準備期間が短く済むので、すぐに営業をスタートしたい場合にも適しています。
デメリット
・不要な設備まで引き継ぐ可能性がある
・設備の劣化や故障のリスクがある
不要な設備まで引き継ぐ可能性がある
一方で、すべての設備が希望に合うとは限りません。業態が異なると、使わない厨房機器や家具などがそのまま残っている場合もあります。
そうした不要な設備も造作譲渡の対象となってしまうと、撤去費用が余計にかかることもあります。
設備の劣化や故障のリスクがある
譲渡される設備の中には、使用年数が経っているものやメンテナンス状態が不明なものもあります。
万が一、営業開始後すぐに故障が発生すれば、修理や買い替えのコストが発生します。
設備の状態は、必ず事前に確認しておくことが重要です。
閉店する側のメリット・デメリット
続いて、閉店する側から見た造作譲渡のメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット
・原状回復コストを抑えられる
・設備売却により多少の資金回収ができる
原状回復コストを抑えられる
お店を退去する際には通常「原状回復義務」が発生しますが、造作譲渡が成立すれば、内装や設備を撤去することなく、次の借主に引き継げます。
その分、原状回復のための費用や労力を削減できます。
設備売却により多少の資金回収ができる
残していく設備や内装に価値があると認められれば、譲渡料という形で買い手から費用を回収できます。
すべての費用をまかなえるとは限りませんが、撤退時の資金確保につながる可能性があります。
デメリット
・買い手が見つからなければ結局撤去費が発生する
買い手が見つからなければ結局撤去費が発生する
造作譲渡は、買い手が見つかってはじめて成立するものです。
タイミングや条件が合わずに譲渡ができなかった場合、結果的に造作を撤去しなければならず、その際には費用もかかります。
造作譲渡を希望する場合は、早めに不動産会社へ相談し、計画的に動くことが大切です。
物件選びのチェックポイントと注意点
ここでは、造作譲渡が絡む物件を選ぶときのチェックポイントと、トラブル回避のための注意点を紹介します。
物件を選ぶ際のチェックポイント
・造作譲渡料が妥当か
・立地と賃料のバランスが取れているか
・設備の状態が良好か
・営業許可がそのまま引き継げるか
・造作譲渡料が妥当か提示された譲渡料が設備の状態や使用年数に見合った金額かどうかを確認しましょう。
減価償却をもとに、どのくらい価値が残っているのか判断することが重要です。相場よりも極端に高い場合は交渉の余地があります。
・立地と賃料のバランスが取れているかどれだけ設備が整っていても、立地が悪かったり賃料が高すぎたりすると集客や経営に影響します。
譲渡料だけでなく、毎月かかる費用も含めて全体のバランスを見るようにしましょう。
・設備の状態が良好か譲渡される設備の中に、故障しているものやリース契約中のものが含まれていないかをチェックします。
リース品の場合、所有権が第三者にあるため、譲渡できないことがあります。契約書に含まれているかどうかを必ず確認しましょう。
・営業許可がそのまま引き継げるか飲食店や美容室など、営業許可が必要な業種では、前テナントの設備をそのまま使っても新たに許可を取り直す必要があります。
特に保健所や消防などの基準が変わっている可能性があるため、事前に行政に確認しておくと安心です。
トラブルを防ぐための注意点
・貸主の承諾を得る
・口約束ではなく必ず契約書を作成する
・リース契約や所有権の確認を怠らない
・貸主の承諾を得る
物件の所有者(貸主)の許可がなければ、造作譲渡そのものが認められないケースがあります。
契約前に必ず貸主に確認し、書面で承諾をもらうようにしましょう。
・口約束ではなく必ず契約書を作成する
トラブルの原因として多いのが「言った・言わない」の認識違いです。
譲渡内容、金額、支払い方法、引き渡し時期など、すべてを明文化して契約書を作成することが大切です。
・リース契約や所有権の確認を怠らない
譲渡対象の中に、リース契約中の設備や貸主の所有物が含まれていると、後々トラブルになります。
譲渡対象物の所有権が前の借主にあるか、第三者に権利が及んでいないかをしっかり確認しましょう。
造作譲渡を断ることはできる?借りる側の交渉術
造作譲渡がセットになっている物件を紹介されたとき、「この設備はいらない」「もっと自分好みに改装したい」と感じることもありますよね。
そのような場合、借りる側は造作譲渡を断ることができるのでしょうか。
ここでは、借りる側の立場と交渉のポイントを解説します。
基本的には「譲渡を受けるかどうか」は自由
造作譲渡は、あくまで当事者同士の合意によって成立するものです。借りる側が「譲渡は不要」と判断すれば、設備や内装を引き継ぐ義務はありません。
造作譲渡料の支払いも強制ではなく、双方が納得して契約して初めて成立します。
たとえば、以下のようなケースでは、造作譲渡を拒否したり、条件を交渉することも可能です。
・設備の状態が悪く、老朽化していたり清掃が不十分だったりする場合
・自分のコンセプトに合わせて、一から内装をつくりたいと考えている場合
・提示された造作譲渡料が高すぎて、費用対効果が見合わないと感じる場合
ただし「造作込み」で募集されている場合は注意
一方で、物件によっては「造作譲渡込み」で募集されており、それが条件となっているケースもあります。
この場合、「借りたければ造作も引き取ってください」というスタンスになっているため、交渉が難航することもあるでしょう。
特に人気エリアや希少物件では、「譲渡を断るなら他の借り手を探す」と言われることもあります。
そのため、借りる側としては、「この物件は造作込みで借りる価値があるか」という視点で慎重に判断することが大切です。
不要な造作は「撤去してもらう」交渉も可能
どうしても譲渡を受けたくない設備がある場合は、貸主または前の借主に撤去を依頼できるか相談してみましょう。
撤去に費用がかかる場合は、どちらが負担するかを事前に取り決めておくと、トラブル防止になります。
よくある質問
ここでは「造作譲渡」についてのよくある質問を紹介します。
減価償却ってなに?
- 減価償却とは、購入した設備や内装などの「資産の価値が年数とともに減っていく」ことを、帳簿上で計算する会計上の考え方です。
たとえば高額な厨房機器や内装工事費なども、時間が経てば価値が下がっていきますよね。
この“残っている価値”が、造作譲渡を考えるうえでの一つの判断材料になります。
譲渡する側も受け取る側も、この「残存価値」を参考に金額交渉を行うことがあります。
造作譲渡料って途中で返金されるの?
- 原則として、造作譲渡料は一度支払えば返金されないと考えておくべきです。
これは売買に近い性質のため、「設備を譲ってもらう代わりにお金を払う」という形式で完結してしまいます。
契約書で特別な合意があれば例外的に返金対応されることもありますが、かなり稀です。
のちのトラブルを防ぐためにも、金額や返金の有無は事前に契約で明確にしておくことが大切です。
造作譲渡を断ったら契約できないこともある?
- はい、あります。居抜き物件では、造作譲渡がセットになっているケースが多く、「譲渡を前提として次の借主を探している」という状況も少なくありません。
借り手が造作譲渡を拒否すると、貸主や前の借主側から「では他の借り手を探します」と断られてしまうことも。
造作譲渡は任意の交渉事項ではあるものの、条件次第では契約に大きく関わる要素になるため、事前に柔軟に話し合っておくことが重要です。
借りる側も貸す側も「造作譲渡」のことを知っておくのだ~

- ニッショー.jp
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- 造作譲渡とは?居抜き物件で開業・閉店するなら知っておきたい基本知識






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