企画秘話

ニッショー×ヴィレッジヴァンガードのコラボルームプロジェクト第5弾は、
北欧・ヘルシンキを舞台にした“あの食堂”がテーマ。
ゆったりとした独特の空気感を表現するため、リアルさにこだわったのだが、
そこには思わぬ苦労があった。

賃貸物件創造の新たな流れ。

 ニッショー×ヴィレッジヴァンガードのコラボルームプロジェクトも第5弾まで実現してきたが、ここで新たな流れが生まれようとしている。それは映画をコンセプトにしたこれまでにない賃貸物件の創造。その「シネマ・ライン」として最初に登場するのが「スオミ・ダイニング」だ。
 言わずと知れた北欧・ヘルシンキを舞台にした“あの食堂”を再現しようとした企画で、候補に挙がった映画タイトル9つの中から選ばれた。ニッショーとヴィレッジヴァンガードの担当者も、賃貸物件をつくる視点で映画を観て「おもしろい!」「これならイケる!」とモチベーションもアップ。お客さまからのアンケートで「北欧テイストの部屋に住めたら……」というニーズもあったことから、映画の世界観に忠実な物件をつくろうと意気込んだ。

名前使用許可に向けて、動く!

 世界観にこだわった物件をつくるなら、名前にもこだわろうと“あの食堂”の名前を使わせてもらう案も思いついた。さっそく映画の版権を持つ会社を当たったが、その会社はすでに大手映画会社に合併吸収されていた。そこで今度は大手映画会社へ交渉することに。物件のコンセプトを説明すると、担当者はたいへん気に入ってくれた様子。ただ“あの食堂”は製作委員会方式(*1)を執っており、監督やプロデューサーをはじめ、その委員会に所属するテレビ会社や各企業の担当者すべてにOKをもらわなければ、名前の使用は許可されないという。
 物件に賭ける熱い思いをぶつけ、返事が来るまで今かいまかと待ちわびた。そしてついに返答が……。答えは「No」だった。
 先にも述べたとおり“あの食堂”は独自の世界観を持っている。製作委員会としても名前の使用を許可(=公認)して、もしそのイメージにそぐわない物件ができたら……と危惧したのだろう。その心配を払拭するためにパース図もつくって提案したのだが、それでもダメだった。

*1……参加企業が資金を出し合うことで、映画を製作する方式。権利や損益は参加企業で分け合い、出資リスクを分散できるメリットがある。

ハンパないこだわり。

 残念ながら名前の使用は許可されなかったが、物件へのこだわりが薄まったわけではない。まずは3LDKの間取りを2LDKにリノベーションするとことからスタートした。メインとなるダイニングルームは、水色の腰パネルが目を引く。“あの食堂”とこのダイニングルームではサイズが違うため、部屋に合ったカスタマイズが必要だ。そのため、腰パネルの高さも110cmと120cmの両方を作ってどちらがベストの高さなのかを検討した。カウンターにいたっては、映画に登場する本物のカウンターの木目を注意深く観察し、木の種類を特定。同じ材質で製作した。もちろん“あの照明”も健在だ。さらにダイニングルームに留まらず、そのとなりには映画の登場人物が使用していた洋室までつくってしまったというから、そのこだわりはハンパではない。

漂う空気感こそが、最大の魅力。

 「イメージを壊さず、いかに本物に近づけるか」をテーマとしているが、家具などは初めから置かないという。それは入居者が好きな家具を入れ、カスタマイズする楽しさを残すため。住む人の好みを反映させて、はじめてこの部屋は完成するのだ。担当者はこの物件についてこう話してくれた。
 「自分の空間や時間を大切にしている人に住んでほしいですね。料理が好きな方にもおすすめです。インテリアには徹底的にこだわりましたので、住むだけで映画の主人公になれますよ」。
 この物件の本当の良さは、写真を見ただけでは分からない。まずその場に行って、その空間に身を置いて、そこに流れる時間を感じる……。その空気感こそが、最大の魅力なのだから。